2010年4月1日木曜日

チンタオ


9月3日 午前7時
丁君に起こされて目覚めた。すでに青島に入港している。

正午出帆、午前中上陸。久々なので市内見物をしようとすると、
出発の折から事務長より『台風の恐れがあり明朝出帆する』と通達があった。
ゆるゆると見物に出て、K氏の好意により同氏の自動車で
15〜6年前の記憶を呼び起こしつつ、午後1時までにひと通りの見物を終えた。

想像していたほど市内は荒れておらず、
むしろ道路および市街地は拡大・整備され、清潔も保たれている。
ただ自国意思の発揚というか、目実の山上あるいは目標の海岸へ
色彩濃厚・型態古風の●門鐘●を建設しているのは仕方のないこととはいいながら、
青島の特色ある建築美を大きく損なっている。

しかもここも時代の流れにはあらがえず、
主要な海岸にはモダン味豊かな大建築がグロテスクで、周囲と調和のとれていないこと甚だしい。
その昔「忠の海」と称した海水浴場も賑わいを見せ、
老山(ラオシャン)の個人別荘は数を増し、
例の赤屋根こそ一様だが、大型小型のものが趣き深く建ち並び、
その庭園は今を盛りと咲き競う草花に囲まれ、刈り込まれた芝草の美しいこと。
ひと夏を気ままに過ごす外国人の余裕ある生活、なんと羨ましいことか!

中山公園の自然美と、どこにでもまず出来るモダンな大運動場を見て、忠霊塔を参拝した。
巨大な塔もまた裏寂しいものだ。
塔下の有名な桜も雑木の繁るにまかせ、やや古渇している様子は感慨無量。
最近完成したカトリック寺院を参観する。
姿かたちは巨大だが、内部はさほど見る価値はない。
大きなステンドグラスはイミテーションだ。
ニッチにある宗教像はろう細工で、これはさすがに本物のよう。
これよりも在来のドイツ教会はその外観において、
内部の手法と効果的な色彩の大胆さは遥かに優れていると感じた。

この先は自動車を流し、思い出すままに散策した。

やがて料亭三浦屋にて涼をとる。
大連から専勤しているという美妓らが席にはべる。
U氏のうわさ話などをし時間が過ぎるのを忘れ、
午後10時帰船。旅情はもっぱら寂しいものだ。


1 件のコメント:

  1. 当時の青島市内の光景について、ごく率直な感想を言っている。(とくに「ただ自国意思の発揚というか…」の箇所など。ちなみに当時の青島はドイツの租借地)
    教会建築にも造詣が深かったんだな。

    グロテスクな大建築が周囲と調和がとれていないとか、いまの日本の街を見たら卒倒することだろう。

    返信削除