2010年12月12日日曜日

モンテカルロ、カジノ体験




カジノの玄関には金モールの番兵が立ち、法廷のような受付で入場券をもらう。
私が丁寧にパスポートを出したら笑って、見せてもらう必要はないと言う。
外套や手荷物を預け、大きく立派な部屋を幾つも通って勝負をやっている部屋に入る。
金ピカの部屋に2〜3台の玉突き台のようなルーレットの台、
こんな部屋があちこちに5つも6つもあり、
この台の周囲に男女が整然と折り重なって
金貨の形をした木札を思い思いに張っている。
タキシードを着た役人が長い熊手で一勝負ごとに木札をかき集める。
勝負の早いこと、見る間に前の木札が増えたり減ったり、みな静かで囁きもしない。
よく見るとみんな小さな紙片に統計をとり、相当慎重にやっているようだ。
一勝負ごとに回る円盤を見つめている。緊張の瞬間である。


私のそばの婦人が肩越しに100フランばかりを張った。すぐに30何倍か勝った。
知らん顔をしてどこかに消える。どの台もみな満員だ。
ゲームはこのルーレットの他にトランプでやるのやサイコロでやるものなどがあり、
みな簡単なものである。周囲には現金を木札に替える所があり、
美しい休憩室のまわりには貴金属商や高級な婦人用品商が店を出し、
レストランや大きな劇場などもある。
このカジノを中心に市内はほとんどがホテルやカフェ、レストランである。
私はコレクションのために付近の郵便局に行って切手を求めたが、
金高によってちゃんと一袋にまとめてあり、たくさんの種類のものが出来ている。
恐らく郵便用ではないだろう。
この国は公許賭博場の収入で成り立っており、人民から税金はとらない。
しかし賭博のよからぬことは知っていると見えて、国民には一切禁じられている。


帰途は懸崖の曲がりくねった海岸通りを左手に海を見下ろし、
夕闇に燦然と輝く燈光を見ながらニースに帰った。


ニース〜モナコは気候に恵まれ、自然の景勝に富んだ世界の公園である。
人はここに住み、日本女性を妻に持ち、支那料理を食うことを
贅沢の限りとしているということである。
天恵の景色や気候と共に、実にこの世の天国ともいえようが、
また地獄にも紙一重である。
世をあげて非常の時にもここばかりは特別で、
人間に弱点のあるかぎり永遠に存在し、益々繁昌することだろう。

ニース 〜NICE〜

正月15日 

相当の悪天である。朝食後、小降りの隙に海岸に出た。
公園入口の美しいこと、常緑樹の間に真紅の花、
青い芝生の間には色とりどりの草花が目も覚めるように咲き誇る。
噴水がある池の美しさ、たくさんの水禽に群衆が餌をやっている。




この美しい公園を通って海岸のプロムナードに出た。
なるほど広く、見渡すかぎり彼方にまで延びて長いものだ。
幅は両側の人道が各々約20メートル、中央の車道は約30メートル、
さらに10メートルくらい後退して家屋が建ち並び、
5〜6階建てのフランス風の建物が色とりどりに建ち連なり、
前庭には熱帯樹や草花が、各階の窓からは花が垂れ下がる。
散歩道の真下は小砂利を隔てて白波が打ち寄せ、実に気持ちのいい舗道である。




このプロムナードを散歩していると、いったい東京の街全体を買えばいくらぐらい
するだろうなどと大きな気が起こるというが、実際そんな気になってくる。
ここは春3月のカーニバルには花合戦や仮装行列、
舞踏会など贅沢の限りを尽くす娯楽場である。
なんの屈託もなくここで呑気に暮らしたら、確かに長生きするだろう。


午後からはモナコのモンテカルロに行く。
自動車で山越えして行くのだ。山頂からの眺めは実に好い。
しかし残念なのは雨上がりの濃霧に遠望を妨げられ、楽しみが半減してしまったことだ。
立派な自動車道路を坦々と山頂に登り、いくつものトンネルあるいは
数十丈の懸崖を見上げ、緑樹の間を快走する。
山腹の街街を通ってモナコに出て、やがてイタリアに出る。
付近にサラ・ベルナールの別荘があった。絵に描かれたような家だ。
ここから引き返してモンテカルロの中心地にあるカジノに着いた。
宮殿のような立派な建物である。
前庭は南洋樹の並木、草花の花壇が美しく整理されている。