2011年7月24日日曜日

NYに見る、人類の発展と幸福の意味





ニューヨークはマンハッタン、ブロンクス、ブルックリン、
クイーンズ、リッチモンドの5区からなる。
有名なのはマンハッタンで、ニューヨークの中心を成し世界一を誇る施設がある。
摩天楼や港湾設備、市街の電飾などすべて世界の先端的に完備されている。
マンハッタンの南部、ダウンタウンは表現と繁華の中心で
50丁目あたりのラジオシティ付近まで集中している。
この世界の驚異的物質文明の極致的存在であるマンハッタンは
ハドソン河にある長さ13里幅2里の南北に長い島で、
東にハドソン河、西にイーストリバーがあり、
この島は今から約300年前、オランダの植民地として認められ、
わずか24、5ドルの値の物品とで黒人によって交換されたものだ。
いまさらながら物質による文明の急速な進歩には驚くほかない。


市街は整然とした直角的な道路が東西南北に通じ、
両側に雲表にそびえる高層建築が建ち並ぶ。
高架電車、路面電車、バス、地下鉄などが縦横に通じ、
自動車と人の流れは洪水のように氾濫している。
河の両側の横断用に各々2つのトンネルと、ニュージャージーに向けた1つがある。
その他に大鉄橋がたくさんあり、ハドソン河の沿岸には世界一の大築港で
岸壁には無数の埠頭が櫛の歯をみるようにできており、この延長が約5万間とのこと、
輸出入の貨物が年額4千万トン、大洋航海の巨船が20分に1隻の割合で出入りし、
毎日300隻の碇泊をみるそうである。


ニューヨークは年間1,500万トンの食糧を消費する一方、
約5万の工場から年間約70億ドルの生産をして、
隆盛な内外貿易は浪費の王城であると同時に生産都市でもあるのだ。




このこのようにニューヨークは世界の先端をいく物質文明の極致的存在で、
ドルと科学の力による米人気質を遺憾なく発揮している。
しかしここで目の当たりにした生活は、人間本来の要求と生存の価値を
真実に表現し体得しているとは言い難いのではないだろうか。
やむを得ずとはいえ、市街は上へ上へと延び、人は一日太陽を見ず、
土を踏まない生活を余儀なくされ、神経質になり、機械的な人間となり、
極端な個人主義で家族制度は破壊され、物質的娯楽により癒されるしかなく、
極端な刺激がなければ満足できない。
したがって動物的になり野蛮性を帯びつつある。
科学文明の進展につれ、
そこに精神性の発達が並行していなければならないことを痛切に思う。

NYのエンターテインメント

3月6日
 
昨夜から雪でかなり寒い。
午前中からダウンタウンの三井銀行へ行き、最後のクレジットをドルで引き出す。
100ポンドばかり残っていたがこれが約500ドルだった。
この資金でサンフランシスコまで行かなければならない。
すでにビューローの支店に少々贅沢だったがこれに200ドル、
ここの支店に約100ドルいるとして、残額は約200ドルだ。
これで大陸横断中の小遣いからLA、サンフランシスコの滞在費に充てる。
船中の費用も相当入り用だろう。計算してみるとどうやら過不足なしにいくようだ。
三井銀行支店長のY氏と30分ばかり色々と話した。明日の夕方自宅へ招待を受けた。


その後、35丁目までバスで出てビューローへ行きK氏を訪問。
今日は土曜日で、2時半からメトロポリタンオペラでマチネーを観る。
入るとすでに開幕中で2〜3ドルの席はない。
やむなく5ドルの席に行くと2階のボックスだった。夜は25ドルだそうだ。
アレキサンダー・デューマ作の「椿姫」をやっている。
小説で読んだことがあったのでよくわかり、興味深く観ることができた。
特にここは音楽が良いようで、観覧席は7階までありほとんど満員だった。


一旦ホテルに帰り、食事のあと商工省の某氏とフレンチカジノに行く。
ここは食事をしながらレビューやシネマなど色々な余興をやるので、
入場料として3ドルとるがその金に飲食代も含まれる。
私たちは食事の後だったので数種の洋酒をとった。
館内はモダンで白と赤の2色にステンレス使いで案外と高尚にできており、
客も中流以上と見え、多くがタキシードなどを着込んでいる。
ここのレビューはなかなか美しい。
背景に光線を応用して極端に美しい色や線ができて見事なものだ。
これらを背景に半裸の女優が美しいダンスをやり、
その間には最新流行の婦人服のモードを見せるようなものもある。
ことにアラビアンナイトの一場面などは実に夢のような眺めだ。
10時頃帰宿。外はだいぶん寒い。

建築群にあらわる、アメリカ合衆国の姿



ワシントン市はホドマック河をまたいで自然の景勝を基とした雄大な計画で造られており、
ニューヨークの井型とパリの放射型を併用し、
建築物は皆、配置、環境、敷地などとの調和がよく研究され、
一貫した計量によって官公署の建築などもよく統制されて実に美しく雄大。
理想的な都市計画である。


ここへ来てアメリカ人のよき面を見たような気がする。
しかし統制された官公署建築に接して一般建築の粗雑なものがあるのは
どこの国にも共通した悩みと見える。
相当以上に留意されているここワシントンでさえ、これは仕方のないもののようだ。


また、ここで特に感心したのは多くの官庁群がデストリックヒーティングで、
したがって煤煙防止においても相当留意されているそうで、
白い建物が多いがその多くはあまり汚れた様子もない。
まだ暖房時期であるがどこを見ても目につくほどの煙は上がっていない。
空は澄みわたり、実に清澄な街である。


外国人にとっては国の威力も個人の偉大さも、形に表現しなければ承知できないもので、
ワシントン市も現代アメリカ合衆国の隆盛と首都の権威を
有形的に表現するがために、特に新設された大都市である。
歴史が短いので古跡を持たないアメリカは、記念物を造ることに相当に苦心しているが、
金の力で出来たものはいかに立派なものでも奥ゆかしさはない。
説明も欧州では耳にしない金高や大きさと高さのことばかりである。


とはいえ、ワシントン市を1日で見物するのはなかなか骨の折れることで疲れた。
停車場へ行き絵はがきなどを買い求め、午後4時ニューヨークへ戻った。

ワシントンの建築を廻る




近くには陸・海軍省、国務省、美術館、ハン太平洋館、
赤十字社などといった官公署の建物が建ち並び、街並は実に美しい。
海軍省は大公園に面して現在新築中である。
リンコルンが狙撃されたフォーヅ劇場や、息を引き取った家などの前を通った。


その辺りから再度公園に入る。
ホドマック河の岸辺にはたくさんの大株の桜の並木がある。
この桜は二十年前に東京から寄贈したものだが、完全に育って花もよく咲き、
満開の頃は非常な人気を呼んでいるそうで、周辺のホテルなども見物客で満員になり、
一ヶ月くらい前から予約しなければならないそうだ。


車は河や池、泉のほとりを快走し、丘の上のリンカーン記念館に出た。
ちょうど大公園に議事堂と対立して建っている。
白大理石ドリツク風の殿堂で、内部にリンカーンの座像が帳面に据えられている。
さらに車は進み、ホドマック河に架けられた石橋を渡り、
正面高台の国立墓地を見てアーリングトンの丘を郊外へ進み、
カステイス・マンションという邸宅に行く。
ここはジョージ・ワシントンをはじめ、
カステイスまたはリーなどのかつての住居であり、当時の状態のまま保存されている。
ここはホドマック河口で実に景勝の地である。