2010年5月3日月曜日

S男爵と満州国建築計画を語らう




11月6日 
今日1日は休養。
しかし午後5時、かねて約束していたS男爵をホテル・ウインザーに訪問する。
氏は昨年兇手に倒れた三井の重役、S氏のご令息であり、
有名な美術研究家で多数の著書もある。
来春5月、パリ市で開かれる万国博覧会の日本建築他の用務のため滞在中なのだ。

氏は自室に我々を快く迎えられ、
来満の際、新京を通過されたが、せっかく新市街が出来ながら、
乱雑な商店の看板が市街美を害していることを惜しんでおられた。
まったく同感である。
しかし建設局もすでに看板に対しては特に留意し、
制限を設け広告塔なども建造してあるはずだ。
さらに氏によると、英国は本国の行き詰まった建築を各植民地において思う存分実行し、
都市計画においても新様式の実現に努力しつつあるという。
満州も日本の後など学ばず世界の先端をいくべきだと熟説され、
モスコーの建築の近代的表現を賞されていた。
私が満州国宮殿計画の困難を話すと同情され、
むしろ庭園に主体を置いてはとのことだった。

6時半に辞し、ぶらぶらとホテル近くまで帰り、あるレストランを覗いた。
中は立派な食堂で、紳士淑女で一杯だ。
ちょっと気が引けたが、ええいままよと彼らに割り込む。
しかし誰一人妙な顔をする者はいない。皆知らん顔をしている。
片言の仏語で定食を頼む。時々ウエイターが来ては
「どうだ、うまいか」などと言い、もう少しどうだと勧める。親切なものだ。
外は大変な雨。ホテルに帰ると京大のS博士の名刺が置いてある。
留守をして失敬したが丁君は会ったそうだ。

明日はいよいよドイツ、ベルリンである。荷物の検査やレジスターのことが気にかかる。
窓の外はさめざめとした雨が降っている。

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