駅前に出てゴンドラへ乗った。
ゴンドラは前後に鳥の頭のような磨いた金物が付けられたボートである。
2人の船頭が鼻歌を歌いながら漕ぐ。
幾度か絵で見て話を聞いたゴンドラに初めて乗ったのである。
幅の広いキャナルを進む。両側は古い4、5階建てが並んでいる。
建物の玄関はその多くが運河に面している。
古びた壁、彫刻、入口の扉や玄関の石段を運河の水がひたひたと洗い、
風情のあるゴンドラが色塗りの杭に繋がれ、
円形の石橋にもたれて話す老人、
両側から覆い被さるようにして建つ古い建物、
陽が反射して絵のようである。
狭く曲がりくねった運河を通り、広い所へ出た。
正面に丸いドームの寺院が、折からのあかあかとした夕日を背に眩いばかりだ。
やがて左手のホテル・モナコに着いた。
ヴェニスでは運河が道路で、ゴンドラは自動車である。
通された部屋は運河に面し、天井も壁も金色に装飾され、
電燈機具や調度品も煌々とし、
金色大型のダブルベッドは少々憂鬱である。
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