終着駅はホテルになっていて、郵便局や食堂もある。
ベランダからの見晴らしがよい。
ここは下の駅から1万2千尺断崖の中間にあるのだ。
右にユングラウの頂上の麗姿を眺め、前面は見渡す限りの大スロープ、
右手の絶景の下には千古の氷河が横たわる。このベランダで写真を撮り、
絵はがきを書き、食事をとって元旦のスタンプを受けた。
直射日光を受け暑いぐらいで、みんな外套をとる。
休憩後エレベーターで昇る。その先は徒歩で右に進む。
メガネとステッキで断崖の小路を辿る。
一歩誤れば千丈の谷底に墜ちるのだ、とても下を見ては歩けない。
そこを過ぎれば平坦な丘に出る。下界を見下ろすと自分は雲上の人、
今日はよく晴れて、遠い麓までよく見える。
右手ユングラウの頂上まではあと約2千尺もある。
天にそびえるその壮観は陽に反射して限りなく美しい。
海抜1万2千尺、これより先は我らも昇れない。
案内人の話によれば一人の日本人がスキーで頂上まで昇ったとのことだ。
断崖の頂上に立ち、大声で「満州帝国、日本帝国万歳」と叫ぶと皆驚いていたが、
真面目な口調でベリーグッドを叫び厳粛な気分になる。
危ない道も案内人に助けられながら石室へと帰り、2時30分、再度電車で下る。
多くのスキーヤーが勇敢にもスロープを滑っていた。
インターラーケンに着いたのは午後6時半、辺りはすでに暗く、
空を仰げば薄暮の後方にかすかにユングラウの頂上がそびえている。
大雪崩を心配し、寒いだろうと思っていたのに暑いほどだった。
しかし1万2千尺もあるので、頂上は空気が希薄で頭痛に苦しみムカムカとした。
頂上の石室には澤上の鳥に似たくちばしの黒い鳥が旅人の投げるパンを巧みに宙取りした。
宿で美味い夕食をとり、主婦の差し出すサインブックに感想を書く。
「家族的な宿で、東洋の遊子をゆっくりとさせ、特に料理が美味しい」と書き、
「娘が美人」と加えた。その上にユングラウの勇姿とスキーヤーをスケッチした。
主婦にそれを説明してやるとしきりにサンキューを連発していた。
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