ロンドン市には中央にハイドパークとケンシングパークがあり、
リージェントパークには有名な動物園がある。
また、街はずれにある自然林の広大なリッチモンドパーク、
人工的な美しさのキューガーデン、
東洋風の建物、ウエストミンスターの中心地にあるゼームスパーク。
これらの内で最も市民が集まるところは、何といってもハイドパークだろう。
面積は実に8,000万坪もあるそうだ。
サーペンタインという池、南端のルッテンローという練馬場、
池ではボートレースができるくらいだ。
公園はほとんどが平面的で、点在する老樹と芝生で大都会の中心とは思えない幽なところがある。
日曜などは大変な人出だ。大抵の夕方にはマーブルアーチ付近の所々で演説が始まり、
自分で担いできた三脚の上で弁士が熱演している。
聴衆はこれを取り巻いて静かに聴いている。終った後で質問などをしている者もいた。
演説はいかなる種類のものも自由で放任している。
聴衆も訓練されていて、嬌激で扇動的な演説を聴いても盲目的に雷同しない。
冷静に聴くのが常だそうだ。しばらくして真の興論が生まれるのだろう。
この公園の夏の夜の光景も見ものだそうだ。
樹陰の薄暗い芝生の上に無数の男女がごろごろと横臥し醜態を演じているそうで、
英人はこれをグラズ・サンドウイッチといい、通る人も見てみぬふりをしているという。
政府は無論不干渉である。英国人は酷いことは見ない、知らないという風で、
ピカデリーやリージェント・ストリートにあれほど淫売婦がいても、
前首相ロイド・ジョージは議会で英国に1人の淫売婦なしと声明し、
議会もこれを承認しているという状態。
12月近い今時分ではまさか芝生に寝転ぶわけにもいかないと見え、
暗がりのベンチで抱き合い接吻しているのがあちこちにいて、前を平気では通れない。
しかも公園の中を自動車が幾台も静かに通っているが、これが皆その手の自動車である。
欧州の自動車は日本と反対で、走行時にルームランプは燈火しないことになっている。
停車し、料金を払う時に必要上燈火する。
したがってこれらの乗客には実に都合よくできているようだ。
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