黄色の壁、ヤシの葉の屋根、これらはみな黒人の中流層のものである。
農家は茅ぶきで朝鮮そっくりだ。
中には入母屋(いりもや)造りの日本葺きのものもある。
田舎の町家も正面は大抵木造で日本に極似し、
ランカンや格子造りで京都や中国の町家にそっくりである。
シンガポール、ペナンに次いでこの地で粗造りの原始的な家屋を見て、
日本の寝殿造りの根源を発見したように思う。
我らの祖先はここにあるのではないか。
徳川300年の鎖国がなかったなら、遠い昔、
ここまでが日本だったのではないだろうかと切実に考えさせられる。これらの建物や、
頭上に物を載せ、原色の着衣で樹間を悠々と行く黒人の姿は見る者の目を楽しませてくれる。
10歳くらいの子供の愛らしいこと、よく整った顔、丸々と黒く澄んだ平和なまなざし。
しかし中年以上の者は険しい顔つきである。
黒い顔に落ちくぼんでギラギラとした眼、白い頭髪、安達ヶ原鬼婆はかくやと思わせる。
男女共に原色の着衣、しかしみな裸足である。
彼らは四六時中くちに木の実を噛み、口中を真っ赤にしているのは気持ちが悪い。
途中、小学校や女学校もあった。
生徒は大部分が黒人服だが、中には洋装の者もいる。
みな英文の書物を抱えている。
概して黒人の生活も想像したほど惨めなものではないようだ。
たしかに満州地方よりは文化の程度も優れ、生活も上級である。
さまざまな理由はあるだろうが、天然物が豊富なので生活が容易なことも大きな理由だろう。
沿道の所々には水浴場がある。男女共に着衣のまま頭から水を浴びている。
しばしば川の流れで水浴しているのも見かける。
市街でも郊外でも山の中でも、1頭の馬も見ない。ほとんどが牛である。たまに水牛もいた。
熱帯植物の間に悠々とした大象を2、3度見た。途中リプトン茶の工場も見た。
個人所有の動物園で巨象に色々な芸をやらせるところがあり、
中でも黒人の打つ鼓の音に合わせてダンスをやるのは滑稽である。
例のコブラという毒蛇もいた。この蛇は頭が大きいのだと思っていたが、
鎌首を上げる時その喉を広げるのだった。
他にも白猿、大トカゲ、ハリネズミをみた。
今でこそテレビ等で世界各地を旅行できるが、いきなり現地へ飛び込んでその目で直接触れて、ストレートな感想を言ってて面白い。テレビのように変なフィルターがかかってない分、自身の経験と見識のみで語っている。“世界を見る”という、本当の意味での世界旅行が体験できたのはこの時代の頃までだったのではないか。現地のヒトに対するまなざしがいい。リプトンの工場も見ているし。
返信削除現地のヒトの観察が面白い。今でこそテレビ等で世界旅行できてしまうが、いきなり現地に飛び込んでじかに接した感触が伝わってくる。“世界を見る”という本当の意味での世界旅行ができたのはこの時代までだったのではないか。
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