早朝、ドイツ駐在満州国商務官のK氏より電話があり、雨の中を訪問する。
ハイドパークのそばのグルブナー・ホテルである。婦人同伴で見えていた。
約1時間、ドイツ事情のあれこれを聞き、辞した。
今日は新帝陛下が議会開院式に初めて御臨行される日で、それを見物に行く。
グリーンパークのバッキンガム宮殿前に出る。
雨の中、沢山の人が人垣を作っている。定刻に2台のクルマで出御される。
群集の声でそれとわかったほどである。
毎日ここで行われる壮麗な近衛兵の交代式を見ていたので、
さぞかし立派な行列かと思ったが、前駆もなければ後衛もない。
ただ2台の普通自動車だけというあっさりしたものだった。
しかも車窓から片手を上げて、
窓辺から見送られている皇太后陛下に挨拶されつつ出られたそうだ。
群衆も意外そうな顔をして四方に散って行く。
海軍省の庭で打ち出された皇大砲は、飛び上がるほど大きく聴こえた。
最初から数えてみたが30発以上はあった。
午後は領事館へM領事にお別れの挨拶に出掛けたが、あいにくの留守。
次に三井銀行へ行ってドイツ滞在中の費用を信用状から出してもらう。
ドイツ滞在約50日、その間スカンジナビア行きおよび
中欧行きなどの汽車賃も含め、130ポンドを出した。
その内50ポンドはドイツのレジスターにして1135マルク、
もう80ポンドはここでの払い用にそのまま持っていることにする。
ドイツのレジスター、マルクは国外で買うと1割くらい安いそうで、
今日の相場が英貨1ポンドに対し22マルク70。
このレジスターは現金でなく帳面でくれ、ベルリンに行ってから現金化する。
これは旅行者に限られたことで、
1日100マルクまで引き出すことが許され、5日おきでなければ絶対に出せない。
入国する時に厳重な取り調べがある。
しかも国外には10マルク以上は持ち出せない。よく計算しておかねばならない。
それから郵船会社に行き、照国丸で同船してきたH氏にお別れ。
さらに宅送の荷物のことなどを係の人に頼む。
次いで三井物産、三菱に行った。
ここではU氏や支店長を交え1時間ばかり
真底知れぬロンドン視察談をして、雨の中をチューブで帰った。
夜は三井銀行T支店長のお招きで、
ピカデリーのカフェ・ロイヤルにてご馳走になる。
ここはタキシード客が多い、金ピカのすこぶる堂々としたレストランである。
一旦支店長にホテルまで送られて、
さらに同船同宿の方々とお別れにピカデリーのモニコに行く。
12時半頃まで歓をつくした。
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