夜のロンドンといえば何といってもピカデリーだろう。
劇場や活動写真館、料理店、カフェが軒を並べ、歩道は歩けない程の人通り、
車道はゆるゆると動くバスと自動車と電車で埋め尽くされる。
ものすごい光景である。
ここからリージェント・ストリートを通りオックスフォード通りへ出る間が、
性業婦人の横行で世界的に有名なところである。
深紅の唇をした女たちがショーウインドウを見ているふりをしながら右往左往している。
ピカデリーの一端に「モニコ」というレストランがある。
ここの地階にあつまる女はその多くが日本人客専門であるそうだ。
毎夜11時頃から着飾った女たちが入ってくる。
しかし決して客のテーブルには来ない。
彼女らは別のテーブルに付いて仲間たちと酒を飲んでいる。
客の方で気に入ったのがいれば目で合図をして、別々に出て行くのである。
大抵の女が2部屋にバスくらいは持っていて、朝飯を食わせるそうである。
これで1晩3ポンド、日本円にして約50円。
ある夜、三菱の方々の案内で4人連れで彼女らのアパートに行ってみたが、
なかなか立派なものである。立派な家具を置き、女らしく色々の物で飾り立てていた。
日本の長襦袢や日本人形、扇子など日本の物がたくさんあるのに驚いた。
よく見ると一日本人の写真が飾られている。聞けばその男とは約2年も同棲していたそうで、
『いまだに手紙が来る、私のスイートハートだ』と遠慮なしにのろけられた。
彼女らにうつつをぬかし貴重な使命の時をこんなことで送る留学生や視察者の面々も、
写真などを興へて我が身を晒しているなど気が知れない。
その多くが日本で相当の地位にある人なのだから呆れる。
ロンドンばかりのことではない。パリやベルリンでも日本人のよく行く料理店などには、
さも得意気にこれらの女を同伴している日本人を見かけることがある。
若い者ならとにかく、大抵相当の年配者である。
いくら旅の恥はかき捨てでもこれはどうかと思う。
しかし遠く故国を離れ、性的解決を要する必要もあろう。
何も道徳的にばかり考える必要もなかろうし、
一生の思い出にこれらを経験することも悪くはなかろうが、
それにしても公然とすることではなかろうに。
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