クリスマスツリーは見事な灯りで飾られた。
ウイスキー、コニャックなどで年に一度のクリスマスを祝った。
同宿のW氏のピアノとマダムの賛美歌でクリスマスの序曲は滑らかに時を移していく。
それなのに私などにはこれがさっぱりわからず、押し黙っていなければならなかった。
老婆や女中まで夜会服ではしゃぎだす。8時には食堂に出た。
ドイツではやたらに見られないような立派なご馳走が運ばれる。
だが、A氏邸に招待されているので
マダムにわけを話して席を離れ、タクシーを走らせた。
A氏邸では宴がすでに絶頂にあり、
三井のW氏の隣席に着くと、ただちにワインの雨である。
ホテルでひと通りアルコールをやり、
車中で十分に身体の隅々に浸透させてきたので、アルコールのまわりは急激に進む。
ワインとともに同席の方々と一巡の名乗りをあげ、
送れた罰にこの雨はますますひどくなる。
アルコールとともに皆から推されて挨拶に立つ。
A家の祝礼のために乾杯し、満州の民謡を歌い、
そのうえアルコールは私に、「満州を見ずに世界を語るなかれ」とまで言わせた。
ホテルでもそうだったが、列席の47人中、満州関係の人間は満鉄のI氏、
動向の丁君と私のみ、ほかは内地人で少しも満州のことを知らない。
今日、日本の生命線として邁進途上にある満州を知らないとは何ごとかと挨拶した。
A夫妻に美しい令嬢を加えたこのクリスマス・イブは、
ご主人の勧め上手なのとW氏の酒豪ぶりとでまったくアルコールの倪儡(かいらい)となり、
古い歌やら東京音頭など、知らない歌まで鼻歌で歌い通す始末。
サロンではダンスが始まる。
三次会以降も、W氏や同席のM氏らと1時頃までほとんど夢中で、
途中2、3軒のカフェに暴れ込んだが、何も記憶していない。
ただ1つ、ドイツで初めて自分の女性感に合格する美人に出会ったことだけ記憶している。
ベルリンでこんな愉快なクリスマスイブを迎えられようとは思わなかった。
A氏に心から感謝した。
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