パリ市には大部分で地下鉄(メトロ)が敷かれている。
数両を連結した列車がおよそ1分おきに運行し、車両には喫煙禁煙の区別、
1、2等の等級があり、もちろん乗り換えは自由、
会社経営で建設はすべて市が施工し、これを無償で会社に譲渡、
乗客1人あたり1銭ばかり徴収している。
ここでは地下鉄のことを会社の名を取ってメトロと呼んでいる。
他に地上には乗り合い自動車(バス)があり、2階はなく後ろから乗降する。
この経営も民間会社で料金は区制で、これにも1、2等がある。
路面電車もあるにはあるがこれに替わりつつあるようだ。
市内には約40万台の自家用車やタクシーが走り、
さすがのブルバードも夕方のオペラ付近は詰まって動けないぐらいだ。
料金はメーター制で、必ずいくらかのチップをやる習慣である。
夜12時以降は倍額だし、道路はゴー・ストップがあり決して早いものではない。
やはり最も便利で、安くて、早いのはメトロだ。
しかしちょっと馴れないとなかなか乗れない。
オペラ前から東方面にかけてがもっとも繁華なところである。
美しいブルバード、広い人道にはカフェの色とりどりの椅子が5、6列並べられ、
昼過ぎからたくさんの男女がゆっくりとコーヒーを飲んだり食事をしたり、
いかにも楽しそうにしている。これは他にはないパリの特徴である。
この椅子に腰掛けて舗道の通行者に秋波を送る女がいる。
ちょっと笑顔でもしようものならすぐについて来る。
フォリベリゼーのレビュー、
ムーランルージュのダンスホールなどは実に賑やかなものがある。
このあたりを1人でうろうろしていれば案内人がいろいろ勧めてくる。
いわゆる歓楽街に案内してやるというのだ。
パリの裏側では外人に金を使わせるにはいかなることをしても
黙認するフランス政府の醜悪な繁華街がある。
まぁ1度ぐらいは確かな人の案内で見ておくものだろう。
そこには理屈抜きに近代都市経営の真理があるように思う。
偉大な歴史的記念物の豊富さはパリ市繁栄の基礎を成していることは明らかだが、
裏面の思いきった歓楽施設と、遺憾なき近代都市施設が魅力であることは言うまでもない。
約20万のストリートガールと酒を通じて外遊客の落していく金は、
年間で日本円の10億に近いとのことである。政府がこれを真剣に考えるのも無理はない。
歓楽的にみえるパリ人は甚だ浅薄なようだが、
その遊蕩的な一面は外国人観光客の欲求によるもので、
フランスの国民性を物語るものではない。
彼らはむしろその正反対に経済的観念は強く冷静で、その守銭奴的一面の現れだろう。
とくにこの国には全国民の6割を数える堅実な農民のいることを忘れてはならない。
王政に惰することなく、社会主義にあらず、しかし相当に富める国であるのは、
彼ら農民がいるということがフランスの強みである。